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「酔仙酒造」を検索すると、酒の味の話よりも先に津波と復興の話が出てきます。それで「結局どんな酒を造っている蔵なの?」という肝心のところが分からないまま、ページを閉じてしまった人も多いはずです。
結論から言うと、酔仙酒造は岩手県の気仙地方にあった8軒の造り酒屋がひとつになって1944年に生まれた蔵で、いまは大船渡市の「大船渡蔵」で酒を仕込んでいます。造っているのは、精米歩合70%の晩酌酒から40%まで磨いた純米大吟醸、アルコール度数20度のにごり酒「雪っこ」まで、価格でいえば330円から7,700円まで幅のある約20アイテム。令和6酒造年度の全国新酒鑑評会では金賞を受けています。
この記事では、蔵の成り立ちと震災からの再建をまず整理したうえで、定番銘柄のスペックを酒蔵公式の公表値でひと通り並べます。「どれから飲めばいいか」「いつ買えるか」まで分かる形にしたので、蔵見学を考えている人も、通販で1本選びたい人も、そのまま使える内容です。
・気仙地方の8軒の造り酒屋が1944年に統合して生まれた蔵で、社名は「酔うて仙境に入るが如し」という評から
・2011年に本社工場が流失し、2012年8月20日に大船渡蔵で仕込みを再開した
・定番は精米歩合70%の上撰から40%の純米大吟醸まで。冬のにごり酒「雪っこ」は1970年発売のロングセラー
・大船渡蔵は平日の酒蔵見学を無料で受け付けている(要予約・所要約1時間)
酔仙酒造とは?気仙の8軒が1つになって生まれた蔵

1944年、戦時中の企業整備令が「気仙酒造」を生んだ
酔仙酒造の出発点は、酒造りの情熱ではなく国の政策でした。1944年9月26日、国の企業整備令にもとづいて、岩手県の気仙地方にあった8つの造り酒屋が統合され「気仙酒造」として発足します。戦時下で米も人手も足りない中、小さな蔵をそのまま存続させるより1か所に集約したほうが供給を維持できる、という判断でした。
この成り立ちは、いまの酔仙酒造の性格をよく説明してくれます。もともと一族一系の蔵ではなく、複数の蔵の技術と得意先が持ち寄られた組織なので、特定の当主の好みに寄った酒質ではなく「気仙という地域で飲まれる酒」を作る方向に自然と向かいました。晩酌向けの普通酒から大吟醸まで幅広く揃っているのも、この出自と無関係ではありません。
見分け方としては、ラベルや公式サイトの会社概要を見るとよく分かります。創業年に「1944年」と書かれ、本社が陸前高田市、工場が大船渡市と別々に記載されている蔵は全国的にも珍しく、これ自体が歴史を語っています。
知っておくと得なのは、この「企業合同」は1944年で終わりではなかったという点です。1970年7月1日にはさらに大東町の金野連之助酒造店が企業合同で加わり、同年12月5日に本社を陸前高田市へ移しました。つまり気仙の蔵が最終的に合流し終えたのは1970年で、酔仙という蔵は26年かけて今の形になっています。
社名の「酔仙」は日本画家の一言から生まれた
「酔仙」という名前は、日本画家の佐藤華岳斎による「酔うて仙境に入るが如し」という評から取られています。この銘柄名が社名に昇格したのが1965年で、それまでの「気仙酒造」から「酔仙酒造株式会社」へ改称しました。
なぜ銘柄名を社名にしたかというと、この時期すでに「酔仙」という商品名のほうが地域で通っていたからです。地名由来の社名は覚えやすい反面、県外に出たときに商品と結びつきません。銘柄と社名を一致させれば、瓶を見た人がそのまま蔵の名前を覚えてくれます。実際いまでも、岩手県外の酒販店では「酔仙酒造」より「酔仙」の3文字で呼ばれることのほうが多いくらいです。
読み方は「すいせん」。水仙の花と同じ読みなので、電話で注文するときに花のほうと取り違えられることがあります。漢字を伝えるときは「酔うに仙人の仙」と言うと一発で通じます。
本社は陸前高田、蔵は大船渡という二拠点のわけ
酔仙酒造の会社概要には、本社所在地が岩手県陸前高田市、工場所在地が岩手県大船渡市と、別々の市が並んでいます。これは経営上の都合ではなく、2011年の東日本大震災で陸前高田にあった本社工場が流失したためです。
震災後、蔵は隣の大船渡市に新設されました。それでも本社の登記を陸前高田に残しているのは、この蔵が気仙地方の8軒から生まれた蔵であり、陸前高田が本拠地だという意思表示にほかなりません。商品ラベルや納税、地域とのつながりを考えれば、本社を蔵と同じ場所に移してしまうほうが実務的には楽なはずです。
見学や直売を目的に訪ねるときは、この二拠点をきちんと区別してください。酒を仕込んでいるのは大船渡市の大船渡蔵のほうで、見学予約の電話番号も大船渡蔵のものです。カーナビに本社住所を入れてしまうと、酒蔵ではない場所に着きます。
ちなみに岩手県は南部杜氏の本場として知られ、県内には多くの蔵が残っています。気仙地方の酒がどんな位置づけなのかは、岩手全体の酒質の傾向とあわせて見ると分かりやすくなります。

「岩手の日本酒って、結局どれを買えばいいの?」——酒販店の棚の前で、南部美人・あさ開・AKABU・浜千鳥と並ぶラベルを眺めて手が止まった経験はありませんか。産地…
2011年3月11日、甑倒しの日に蔵は消えた
祝いの行事の最中に、海から2キロの蔵まで津波が届いた
2011年3月11日、酔仙酒造はその年の酒造りが無事に終わったことを祝う「甑倒し」の最中でした。甑倒しは蒸米に使う甑を片付ける区切りの行事で、蔵人にとっては一年で最も安堵する日にあたります。
地震のあと、およそ30分で津波が蔵に到達しました。陸前高田の蔵は海岸から2キロ離れた場所にありましたが、瓦礫まじりの大津波によって木造4階建ての倉庫を含むすべての建物が水面下に沈み、壊滅・流失しています。そして従業員7名が犠牲になりました。
この日付と行事の重なりを知っているかどうかで、酔仙の酒の見え方はかなり変わります。仕込みが終わり、蔵に一年分の酒が満たされていた状態で、その全部を失ったということだからです。
なお、被災の記録は蔵自身が公開しています。断片的なまとめ記事ではなく、酔仙酒造の公式ページに年表として残されているので、正確な経緯を知りたい人はそちらを読むのが確実です。
借りた蔵で、わずか半年後に新しい酒を仕込んだ
設備をすべて失った蔵が最初に取った行動は、他社の施設を借りることでした。岩手県内陸部の同業社である岩手銘醸から一関市の施設を借用し、震災からわずか半年で新しい酒の醸造を開始しています。
なぜこの半年が重要かというと、日本酒には「造らない期間が空くと戻れなくなる」という性質があるからです。蔵付きの微生物環境も、蔵人の手の感覚も、取引先の棚も、1シーズン空けば別のものに置き換わります。特約店や飲食店の棚は一度空けば他の銘柄で埋まり、戻すには何倍もの時間がかかります。半年で仕込みを再開したという事実は、精神論ではなく事業継続の判断として合理的でした。
同業他社が自社の施設を貸すというのも、通常なら考えにくい話です。仕込みタンクも人手も限られる中で他蔵の酒を造るのは、自社の生産を削ることに直結します。
着工から5ヶ月で建った大船渡蔵
仮の醸造と並行して進んだのが、新しい蔵の建設です。2012年3月に大船渡市で新工場の建設が始まり、完成まで約5ヶ月。2012年8月20日に新蔵が竣工し、その年の仕込みから操業を開始しました。
酒蔵の新築で5ヶ月というのは相当に短い工期です。仕込みタンク、麹室、貯蔵設備、排水処理まで含めた設備工事が必要で、しかも酒造りには秋から冬という決まった開始時期があります。8月竣工というのは、その年の造りに間に合わせるためのぎりぎりの逆算だったことが分かります。
そして2014年には全国新酒鑑評会に入賞しました。新しい蔵は水も設備も環境も変わるため、以前と同じ酒質を出すまでに数年かかるのが普通です。移転から2年での入賞は、この蔵が単に「建て直した」のではなく、酒質のレベルまで戻したことを示しています。
2011年3月11日 甑倒しの最中に被災、全建物が流失
→ 岩手銘醸から一関市の施設を借用し、半年で醸造再開
→ 2012年3月 大船渡市で新工場の建設開始
→ 2012年8月20日 大船渡蔵が竣工し操業開始
→ 2014年 全国新酒鑑評会に入賞
大船渡蔵はどんな蔵?水を求めてボーリングを3本掘った

建設地は「水」から逆算して決められた
大船渡蔵の建設地は、土地の広さや道路の便からではなく、水から決められました。陸前高田の蔵で使っていた氷上山の「強くて綺麗な水」と同じ質の水を求め、水量・水質ともに納得できる水源を得るために3本のボーリング調査を実施しています。
日本酒は成分の8割前後が水なので、水質が変われば酒質はほぼ確実に変わります。硬度が上がれば発酵は強くなり、下がれば穏やかになる。鉄分やマンガンが多ければ色と香りに影響が出ます。設備を新調しても水が違えば別の酒になってしまうため、水を先に決めるのは理にかなった順序でした。
結果として大船渡蔵が使っているのは、クセのない奇麗な水質で、程良い硬度を持つ地下水です。酔仙の酒を飲んだときに感じる「引っかかりのない入り口」は、この水の性格がそのまま出ていると考えると腑に落ちます。
意外と知られていないのですが、震災後に移転した蔵のすべてが同じ水系を確保できたわけではありません。水源を変えざるを得ず、酒質の再現に長く苦労した蔵もあります。3本掘ったという事実は、そこに妥協しなかったという記録です。
「軽快な麹づくり」が呑み飽きしない酒をつくる
酔仙酒造が掲げているのは、呑み飽きしない「きれい」な酒をめざし、「軽快な麹づくり」「奇麗な水、強い水」にこだわるという方針です。抽象的に聞こえますが、麹室での作業には具体的な形があります。
広い麹室を使い、前半は湿度を保ち、後半で麹米を乾かす。こうすることで、米の粒同士がくっつかず「サバけ」の良い麹に仕上がります。サバけの良い麹は酵素の出方が穏やかで、糖化がだらだら進まないため、後味に重さの残らない酒になります。逆に湿度を保ったまま仕上げると、旨味は濃く出る一方で、一杯目はおいしくても三杯目で飽きる酒になりがちです。
この違いは実際に飲み比べると分かります。酔仙の定番酒は、口に含んだ瞬間の押し出しはそれほど強くなく、飲み込んだあとに米の甘みがふわっと戻ってきて、すっと切れる。刺身でも煮物でも、2合目、3合目と続けられる設計です。
注意したいのは、この「軽快さ」を「薄い」と誤読しないことです。日本酒度が±0前後の中口が多いので、濃醇なタイプに慣れた人は一口目で物足りなく感じるかもしれません。冷やしすぎず、常温に近い温度で試すと本来の輪郭が出ます。
大船渡蔵は無料で見学できる(平日・要予約)
大船渡蔵は、平日に酒蔵見学を受け付けています。費用は無料、対応時間は平日(月〜金)の10:00〜16:00で、所要時間は約1時間程度。予約は電話または公式サイトの問い合わせフォームから行います。1名から最大20名までで、人数によっては相談が必要です。約1時間の説明のあとに試飲ができる流れになっています。
予約が必須なのは、酒蔵が食品工場だからです。麹室や仕込みタンクの周囲は衛生管理区域で、飛び込みの来訪者を入れることができません。また蔵人の作業工程は日ごとに違うため、案内できる時間帯が限られます。
訪ねる際は、直売の営業時間が平日 8:30〜17:00、休みが土・日曜、祝日である点に注意してください。土日にドライブがてら立ち寄っても閉まっています。駐車場はあり(20台)で、アクセスは三陸自動車道大船渡ICから約5分です。
| 住所 | 岩手県大船渡市猪川町字久名畑136-1 |
| 電話番号 | 0192-47-4130 |
| 営業時間 | 平日 8:30〜17:00 |
| 定休日 | 土・日曜、祝日 |
| アクセス | 三陸自動車道大船渡ICから約5分 |
| 駐車場 | あり(20台) |
| 公式サイト | 公式サイト |

晩酌の1本はどれ?定番4本を公式スペックで比べる
上撰「酔仙」は創業以来の顔、日本酒度+1.0の中口
まず押さえるべきは上撰「酔仙」です。本醸造酒(普通酒)で、精米歩合70%、アルコール度数15度、日本酒度+1.0、酸度1.1。原料米は岩手県産米、使用酵母は協会9号。価格は300mlが550円(税込)、1800mlが2,420円(税込)です。
この数字の組み合わせがなぜ晩酌向きかというと、酸度1.1という低さがポイントです。酸度が高い酒は輪郭がはっきりする代わりに料理を選びますが、1.1まで下がると味の主張が抑えられ、和食全般に寄り添います。日本酒度+1.0はほぼ中庸で、甘い辛いのどちらにも傾いていません。
飲み方は幅が広く、ロック・常温・燗のどれでも成立します。実際に試すなら、まず常温で一口、次に40℃前後のぬる燗にしてみてください。芳醇中口という公式の表現どおり、温めたほうがふくよかさが出ます。
注意点として、300mlは味見用と割り切るのが賢い買い方です。晩酌で毎日飲むなら1800mlのほうが単位あたりの負担は軽く、開栓後も火入れ酒なので冷暗所で扱えます。
岩手の地酒は60%磨きの特別純米、迷ったらこの1本
「酔仙を1本だけ試したい」という人に薦めやすいのが岩手の地酒です。特別純米酒で精米歩合60%、アルコール度数15度、日本酒度+2、酸度1.5。原料米は岩手県産米。価格は180mlが495円(税込)、720mlが1,760円(税込)、1800mlが3,300円(税込)です。
薦めやすい理由は、価格と造りのバランスにあります。米を60%まで磨き、最も寒い時期に醸造することで、優しい味わいときれいな風味が調和した特別純米酒に仕上がっています。純米酒でありながら720mlが1,760円(税込)というのは、蔵の実力を確かめる入り口として現実的な水準です。
試すなら180mlを1本買うのが手堅い方法です。495円(税込)で味の方向性が分かるので、合えば720mlか1800mlに進めばよく、合わなければそこで止められます。
覚えておくと得なのは、芳醇中口という味わい表現の読み方です。芳醇=旨味に厚みがある、中口=甘辛が中庸、という意味なので、冷やしすぎると厚みのほうが隠れます。冷蔵庫から出して5分ほど置き、10℃を少し超えたあたりから飲み始めると味が開きます。
純米酒と本醸造辛口、正反対の2本の使い分け
酔仙の純米酒は精米歩合70%、アルコール度数15度、日本酒度+2.0、酸度1.5、原料米は岩手県産米。720mlが1,430円(税込)、1800mlが2,750円(税込)です。純米らしい米の旨味が素直に出る、いちばん飾りのないタイプです。
対して本醸造辛口「酔仙」は、精米歩合70%、アルコール度数15度は同じでも、日本酒度が+7.0まで振れています。酸度1.5、1800mlが2,420円(税込)。公式の表現では淡麗辛口で、「キリッと引き締まった手応え十分な本醸造酒」「線の太い辛口は『熱燗』で燗冴えします」と説明されています。
使い分けの基準ははっきりしています。魚の煮付けや味噌を使った料理のように味の濃い皿には、辛口の本醸造でリセットするほうが合います。逆に焼き魚や冷奴のように素材の味が前に出る皿には、純米酒の旨味が寄り添います。同じ蔵の同じ精米歩合70%でも、日本酒度が5ポイント違うだけで役割が変わるのが日本酒のおもしろいところです。
失敗しやすいのは、本醸造辛口を冷やしすぎて飲んで「ただ辛いだけ」と判断してしまうケースです。この酒は公式が熱燗を推している通り、温めて本領を発揮します。50℃前後まで上げると、辛さの後ろに隠れていた旨味が立ち上がってきます。
| 比較項目 | 上撰「酔仙」 | 岩手の地酒 | 酔仙の純米酒 | 本醸造辛口 |
|---|---|---|---|---|
| 種別 | 本醸造酒(普通酒) | 特別純米酒 | 純米酒 | 本醸造酒 |
| 精米歩合 | 70% | 60% | 70% | 70% |
| 日本酒度 | +1.0 | +2 | +2.0 | +7.0 |
| 酸度 | 1.1 | 1.5 | 1.5 | 1.5 |
| 味わい(公式) | 芳醇中口 | 芳醇中口 | やや辛口寄り | 淡麗辛口 |
| 1800mlの価格 | 2,420円(税込) | 3,300円(税込) | 2,750円(税込) | 2,420円(税込) |
※スペック・価格はいずれも酔仙酒造公式サイトの公表値を日本酒の教科書が集計(税込)。
雪っこはなぜ50年以上も冬の定番であり続けるのか

1970年12月14日、塩化ビニルの容器から始まった
雪っこが発売されたのは1970年12月14日です。当初は塩化ビニル製の容器200mlで発売され、のちに180mlアルミ缶へと変更されました。2020年12月14日で発売50周年を迎えています。
この酒が生まれた背景には、当時の業界事情がありました。終戦後の酒類自由化にともない、東北の清酒メーカーが活性清酒を次々と発売します。ところが既存製品は瓶の中で再発酵して栓が飛んだり、瓶が裂けたりと品質管理に問題があり、市場から拒否されていました。そこで酔仙酒造は、再発酵せずに長期間容器で保存でき、風味も甘く、しっかり飲みごたえのある活性清酒として雪っこを開発したのです。
ガラス瓶ではなく塩化ビニル容器から始まったのも、この文脈で読むと納得がいきます。万一内圧が上がっても、割れて危険な状態になりにくい素材を選んだということです。
販売初期には、小売店が活性清酒そのものに懸念を持っていたため、販売員が実際に飲ませて説得したという記録も残っています。50年以上のロングセラーは、最初から歓迎されて始まったわけではありませんでした。
活性原酒・雪っこはアルコール度数20度、日本酒度-13.0
現在の活性原酒・雪っこのスペックは、精米歩合70%、アルコール度数20度、日本酒度-13.0、酸度1.3。原料米は岩手県産米で、味わいは甘口です。容量と価格は180mlが330円(税込)、300mlが550円(税込)、720mlが1,320円(税込)、900mlが1,375円(税込)、1800mlが2,585円(税込)となっています。
数字だけ見ると、日本酒度-13.0という強い甘口でありながらアルコール度数20度という組み合わせに驚くはずです。これは加水していない原酒で、なおかつ酵母や酵素が生きたままの活性原酒だからです。とろりとした白い液体が口の中に広がり、まろやかな甘味のあとにアルコールの厚みが来ます。
販売期間は冬期限定で、毎年10月から3月末頃まで。直近では2025年10月1日から販売が始まっています。逆にいえば、真夏に探しても店頭には並びません。
原酒というカテゴリー自体になじみがない人は、加水の有無で何が変わるのかを先に押さえておくと、雪っこの度数の意味が分かりやすくなります。

日本酒のラベルで「原酒」の文字を見かけて、「普通の日本酒と何が違うの?」「アルコール度数が高そうで手が出しにくい」と感じたことはありませんか。原酒はマニア向けの…
すっきり飲みたいなら「純米うすにごり 雪っこ」という選択肢
雪っこには、通年で手に入るうすにごりタイプもあります。純米うすにごり 雪っこは、精米歩合70%、アルコール度数16度、日本酒度±0、酸度1.6。原料米は岩手県産米、使用酵母は協会9号/ジョバンニの調べ。300mlが660円(税込)、720mlが1,540円(税込)です。
こちらは搾り工程を工夫することで、うっすらとにごりを残した純米酒です。米由来の旨味や酸味を残しながらも、すっきりと飲みやすく仕上げられています。活性原酒が日本酒度-13.0の甘口なのに対し、こちらは±0の淡麗中口。同じ「雪っこ」でも、飲み口はまったく別物です。
選び分けの目安は単純で、デザート的に甘さを楽しみたいなら活性原酒、食事と合わせたいなら純米うすにごりです。にごり酒は甘いという先入観で選ぶと、うすにごりのほうを「思ったより甘くない」と感じることがあります。
活性原酒は酵母や酵素が生きたままの状態です。振ってから一気に栓を開けると中身が噴き出すことがあるので、立てたまま冷やし、栓を少しずつ緩めてガスを逃がしてから開けてください。公式は生酒でありながら冷暗所であれば半年間保存が可能としていますが、これは未開栓での話です。開栓後は冷蔵庫に立てて保管し、早めに飲み切りましょう。なお、20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されています。
吟醸クラスは何が違う?結の香とジョバンニの調べという武器
精米歩合50%と40%、価格差の中身
酔仙の吟醸クラスは4本あります。純米吟醸 酔仙は精米歩合50%、アルコール度数16度、日本酒度±0、酸度1.4で、720mlが2,200円(税込)、1800mlが4,400円(税込)。大吟醸 酔仙は精米歩合40%、16度、+3、1.3で、720mlが3,300円(税込)、1800mlが6,600円(税込)です。
さらに酔仙 純米大吟醸が精米歩合40%、15度、±0、1.4で720ml 5,500円(税込)、最上級の純米大吟醸 鳳翔が精米歩合40%、16度、-3、1.4で720ml 7,700円(税込)となります。
精米歩合が50%から40%に下がると価格が跳ね上がるのは、削る量が増えるほど原料米の消費量と精米時間が増え、砕米のリスクも上がるからです。同じ40%でも大吟醸と純米大吟醸で価格が違うのは、醸造アルコールの有無と原料米の使い方の差によります。
実は、価格が高い順に「おいしい」わけではないという点は押さえておきたいところです。純米大吟醸 鳳翔は日本酒度-3の芳醇中口で、大吟醸 酔仙は+3の中口。甘辛の方向が逆なので、辛口寄りが好きな人にとっては3,300円(税込)の大吟醸のほうが好みに合う可能性が十分あります。
精米歩合の数字が味にどう効くのかを整理しておくと、この価格差の意味がもっとはっきりします。

日本酒のラベルに小さく書かれた「精米歩合50%」という数字。なんとなく高級そうだとは思っても、その数字が味や香りにどう関わるのか、正確に説明できる人は意外と多く…
「結の香」は大吟醸のために10年かけて生まれた岩手の米
吟醸クラスの原料米に使われている「結の香」は、岩手県が育成した大吟醸酒用の酒造好適米です。系統名は岩手酒98号で、10年に亘る150万株の品種交配試験を経て育成されました。2012年に品種登録を申請し、2014年に登録されています。
この米の特徴は、心白が中心に入っていることと、大吟醸酒用として高度精米(40%)の歩留まりが良好なことです。心白が中心にあると精米しても砕けにくく、麹菌が中心まで入りやすくなります。逆に心白が偏っていたり大きすぎたりする米は、40%まで削る過程で割れてしまい、そもそも大吟醸に使えません。
大吟醸 酔仙と奇跡の一本松には「吟ぎんが/結の香」と2種類が記載されています。吟ぎんがは平成3年交配、平成10年度に奨励品種へ編入された岩手の酒米で、耐冷性が強く、きれい・さわやかな清酒に仕上がると岩手県酒造組合が説明しています。用途によって使い分けられているわけです。
ラベルを見るときの豆知識として、原料米が「岩手県産米」と書かれているものと「結の香」と品種名で書かれているものがあります。品種名まで書けるということは、その品種だけで仕込んでいるか、主要部分を占めているということ。定番酒と吟醸クラスの線引きは、ここでも見分けられます。
酵母「ジョバンニの調べ」が香りをつくっている
酔仙の吟醸クラスに共通して使われているのが、岩手県オリジナル清酒酵母の「ジョバンニの調べ」です。華やかで繊細な味と香りを醸すのが特徴で、「岩手吟醸2号」をベースに、吟醸香をより高く、酸の生成を抑えるよう改良されました。平成21酒造年度から正式配布され、県内の蔵元で広く使われています。
酸の生成を抑えるという改良点が重要です。吟醸香を出そうとすると発酵を低温で長く続けることになり、酸が増えて香りとぶつかりやすくなります。酸が抑えられた酵母を使えば、香りをきれいに立たせたまま味の輪郭を保てます。酔仙の吟醸クラスの酸度が1.3〜1.4に揃っているのは偶然ではありません。
姉妹酵母には「ゆうこの想い」があり、こちらは柔らかく温かみのある味わいを生みます。さらに岩手県は「黎明平泉」というオリジナル麹菌も開発しており、29種類から選抜された2種類の麹菌をブレンドしたものです。
成果は数字にも出ています。全国新酒鑑評会では、令和6酒造年度に酔仙酒造株式会社 大船渡蔵の「酔仙」が金賞を受賞し、令和7酒造年度も入賞しました。金賞は入賞酒の中でも特に成績が優秀と認められたものに与えられるもので、審査結果は酒類総合研究所が公表しています。
酔仙酒造の酒はどこで買える?季節を外さない買い方
通年品と季節限定品を先に切り分ける
酔仙の商品は「いつでも買えるもの」と「時期を逃すと1年待つもの」にはっきり分かれます。通年で手に入るのは上撰「酔仙」、岩手の地酒、酔仙の純米酒、本醸造辛口「酔仙」、特別純米生貯蔵酒、純米吟醸 酔仙、大吟醸 酔仙、酔仙 純米大吟醸、純米大吟醸 鳳翔など。一方、活性原酒・雪っこは10月から3月末頃まで、純米原酒 ひやおろしは9月頃から本数限定、特別純米酒 多賀多も9月頃から本数限定です。
この切り分けを知らずに探すと、無駄足になります。夏に雪っこを探しても店頭にはなく、逆に冬にひやおろしを探しても既に完売しているという具合です。
実践的なコツは、季節品はカレンダーに入れてしまうことです。9月に入ったらひやおろしと多賀多、10月に入ったら雪っこ、と月初にオンラインストアを見る習慣をつけると取り逃しがなくなります。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ | △ | △ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ |
◎=活性原酒・雪っこが並ぶ時期(10月〜3月末頃) ○=ひやおろし・多賀多が出る時期(9月頃〜本数限定) △=通年品が中心
「在庫切れ」は終売ではない、という落とし穴
酔仙のオンラインストアや公式サイトの商品一覧を見ると、いくつかの商品に在庫切れの表示が出ています。ここで「もう作っていないのか」と早合点するのが、2つ目の失敗パターンです。
原因は、季節限定品と本数限定品が通年カタログの中に並んで掲載されているからです。たとえば活性原酒・雪っこは冬期限定なので、春から夏にかけては当然在庫がありません。特別純米酒 多賀多も9月頃から本数限定での販売なので、シーズン外は表示が消えます。これらは終売ではなく、単に販売期間の外側にいるだけです。
対策はシンプルで、商品ページの「販売期間」の欄を必ず確認することです。「通年」と書かれていて在庫切れなら一時的な品切れ、「10月〜3月末頃」「9月頃〜本数限定」と書かれていればシーズン待ちだと判断できます。
もう一点、季節品は本数限定である以上、シーズンに入ってから時間が経つと本当に無くなります。多賀多のように陸前高田産ひとめぼれを100%使い、田植えから稲刈りまで地域と共に行っている酒は、そもそも作れる量に上限があります。欲しい年は早めに動くのが確実です。
震災の記憶をラベルにした「奇跡の一本松」と地元の「多賀多」
酔仙には、味だけでは語れない2本があります。ひとつが奇跡の一本松。吟醸酒で精米歩合50%、アルコール度数14度、日本酒度+4、酸度1.3、原料米は吟ぎんが/結の香、500mlが1,650円(税込)で本数限定の販売です。
この酒は、東日本大震災の復興シンボルである陸前高田市の「奇跡の一本松」をモチーフに造られました。震災を忘れず、新しい街づくりに向けて希望を持って進むという想いが込められています。味わいは淡麗辛口で、吟醸らしい華やかな香りと、無駄な物を削ぎ落した簡潔な麹がもたらす軽快な味わいが特徴です。
もうひとつが特別純米酒 多賀多。精米歩合60%、アルコール度数15度以上16度未満、日本酒度±0、酸度1.5で、720mlが1,705円(税込)。陸前高田産ひとめぼれを100%使い、氷上山系の伏流水で仕込んだ地米酒です。芳醇中口で、酵母による華やかな香りと原料由来の幅のある味が持ち味になっています。
贈り物にするなら、この2本は文脈が伝わる選択です。低アルコールで軽く楽しみたい相手には、微発泡清酒の酔仙 ShuWaWa(精米歩合70%、アルコール度数7度、日本酒度-60、酸度3.5、250ml 825円(税込))という手もあります。飲み切りサイズで、瓶内二次発酵による自然由来の炭酸ガスが入った1本です。
まとめ:酔仙酒造は「気仙の酒」を作り続けている蔵
ここまで見てきたとおり、酔仙酒造は8軒の造り酒屋が合流してできた蔵であり、2011年にすべてを失ったあと、水から逆算して大船渡に新しい蔵を建て直しました。呑み飽きしない酒をめざす「軽快な麹づくり」という方針は震災の前後で変わっておらず、令和6酒造年度の全国新酒鑑評会金賞という結果にもつながっています。最初の一歩としては、180mlで495円(税込)の岩手の地酒を1本買って、常温で飲んでみてください。この蔵が何をきれいだと考えているのかが、いちばん短い時間で分かります。
※価格・スペック・営業時間・見学の受付状況は変更されることがあります。最新情報は酔仙酒造公式サイトでご確認ください。

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