酒販店の冷蔵ケースで、猫のイラストが描かれた四合瓶に目が留まったことはありませんか。あるいは「メガネ専用」という、二度見してしまう名前の日本酒を見かけたことがあるかもしれません。そのどちらも、宮城県栗原市の萩野酒造が醸す「萩の鶴」というひとつの銘柄です。
結論から言うと、萩の鶴はラベルの遊び心とは裏腹に、酒質はきわめて真面目な銘柄です。令和6酒造年度の全国新酒鑑評会では金賞を受賞しており、通年商品の純米酒は精米歩合60%・日本酒度+2という、食事に寄り添う設計で組み立てられています。猫もメガネも、中身の実力があってこそ成立している看板なのです。
この記事では、萩の鶴という銘柄の成り立ちから、季節ごとに姿を変える猫ラベルの中身、酸度2.2という数字を持つメガネ専用の正体、通年で買える定番3本の違い、そして同じ蔵のもうひとつの銘柄「日輪田」までを、蔵元と正規特約店が公表している数値をもとに整理します。読み終えるころには、店頭で自分に合う1本を選べるようになっているはずです。
・萩の鶴は宮城県栗原市の萩野酒造が天保11年(1840年)から続ける銘柄
・猫ラベルは「別仕込」という精米歩合48%のシリーズで、季節ごとに絵柄と中身が変わる
・「メガネ専用」は日本酒度-3・酸度2.2という酸を効かせた特別純米酒
・通年商品は手造り純米酒・辛口特別純米酒・純米大吟醸の3本が軸
萩の鶴とはどんな日本酒?宮城・栗原の小さな蔵が貫く「潔癖醸造」

名前の「萩」と「鶴」は、宿場町の土地の記憶から来ている
萩の鶴という名前は、蔵が建つ土地の旧名「萩野村」に由来します。萩の花が咲き誇る土地だったことから「萩」を取り、そこに縁起物の「鶴」を組み合わせたのが銘柄名の成り立ちです。蔵の名前が萩野酒造であるのも同じ理由で、地名・蔵名・銘柄名が一本の線でつながっています。
創業は天保11年(1840年)。江戸時代末期に、旅人が泊まる旧有壁本陣の向かいで酒造りを始めました。有壁は奥州街道の宿場町で、人と物が行き交う場所です。街道沿いに酒蔵ができるのは、旅人の需要と地元の米が同じ場所に集まったからで、日本酒の蔵の立地としては典型的なパターンといえます。
店頭で銘柄を見分けるときは、ラベルの「萩の鶴」の文字と、裏ラベルの製造者欄にある「萩野酒造」を確認してください。読み方は「はぎのつる」で、蔵名は「はぎのしゅぞう」です。なお同じ蔵からは「日輪田(ひわた)」という別ブランドも出ており、こちらは萩の鶴とは味の狙いが異なります。名前が違えば別の酒、と覚えておくと売り場で迷いません。
「良いものを少しだけ造る」を数字ではなく体制で守る蔵
萩野酒造が掲げるのは「良いものを少しだけ造る」という考え方です。家族と地元の蔵人を中心に、目の届く範囲の量だけを仕込む体制を取っています。大量生産に舵を切らないという選択は、季節限定酒の入荷本数が少ない理由でもあり、店頭で見かけたときに買っておくべき理由でもあります。
この方針を支えているのが、蔵元自身が「潔癖醸造」と呼ぶ姿勢です。清潔な環境で清潔に造ることを徹底する、という意味で、日本酒造りでは雑菌の混入が香りの乱れや味の濁りに直結します。萩の鶴の酒質に共通する「透明感」は、この衛生管理の積み重ねから生まれていると蔵元は説明しています。
味の方向性を現在の形にしたのは8代目の佐藤曜平さんで、2002年に蔵へ戻りました。派手に香りを立てるのではなく、日常の食卓で飲み飽きない酒を目指す設計です。「華やかではないが地味ではない」という表現がよく使われますが、これは吟醸香を主役に据えない代わりに、米の甘みときれいな余韻で輪郭を作るという意味だと理解すると腑に落ちます。
宮城が「純米酒の県」であることが、萩の鶴の土台になっている
萩の鶴の酒質を理解するには、宮城県という産地の背景を知っておくと近道です。宮城県酒造組合は昭和61年11月(1986年)に「みやぎ・純米酒の県宣言」を行い、県内の蔵が足並みをそろえて純米酒に軸足を置いてきました。全国に先駆けた宣言で、以降、宮城の酒は特定名称酒の比率が9割以上に達しています。
この数字は全国平均の約4割、東北平均の約7割と比べても抜けた水準です(宮城県酒造組合「宮城の酒」)。醸造アルコールを添加しない純米系が主流ということは、米の旨味を味の骨格に据える設計が県全体の標準になっているということでもあります。萩の鶴の通年商品がすべて純米系で構成されているのは、この土壌の上に立っているからです。
酒米の面でも宮城は独自路線を歩んでいます。1997年に誕生した「蔵の華」はすっきり軽快な酒になり、2020年に県の第二の酒造好適米として登場した「吟のいろは」は、やわらかでふくらみのある味わいをもたらします。萩の鶴では美山錦や山田錦も使い分けますが、産地としての宮城が食中酒に強い理由は、この米の選択肢の広さにもあります。

「宮城の地酒を買ってきて」と頼まれて売り場に立つと、浦霞、一ノ蔵、伯楽星、日高見……見覚えのある名前がずらりと並んでいて、どれを手に取ればいいのか決めきれません…
猫ラベルは季節ごとに中身も変わる|「別仕込」シリーズの正体
春の「さくら猫」は精米歩合48%のうすにごり生原酒
萩の鶴の顔として知られる猫ラベルは、正式には「純米吟醸 別仕込」というシリーズです。春に登場するのが「さくら猫」で、花見をする猫が描かれたラベルが目印になります。中身は美山錦を精米歩合48%まで磨いたうすにごり生原酒で、アルコール度数15度、日本酒度-2、酸度1.4という数値です。
日本酒度-2はわずかに甘口寄り、酸度1.4は標準的な範囲で、生原酒でありながら重くならない設計になっています。うすにごりは搾ったあとの澱(おり)をあえて少量残したもので、口当たりに厚みと乳酸系のやわらかさが加わります。栓を開けた瞬間に立ちのぼる香りは華やかですが、飲み口はすっきりと切れます。
出荷は2026年は3月3日から始まりました。生原酒なので加水も火入れもされておらず、要冷蔵です。買って帰ったらすぐ冷蔵庫へ入れてください。
よくある失敗が、冷蔵庫のスペースの都合でうすにごりの瓶を横に寝かせてしまうことです。澱が瓶の側面に張りついて固着し、あとから立てても均一に混ざらなくなります。さらに、生原酒は瓶内でわずかに発酵が続くことがあり、横倒しのまま冷やすとガスが抜けにくく、開栓時に吹きこぼれる原因になります。必ず瓶を立てて冷蔵し、開栓前は瓶をゆっくり傾けて澱を戻してから、栓を少しずつ緩めてください。

酒屋の棚で「おりがらみ」と書かれた、うっすら白くかすんだ日本酒を見かけて、「これってにごり酒とどう違うの?」「開けたら吹きこぼれるって本当?」と手が止まった経験…
夏は2段構え、「真夏の猫」と「夕涼み猫」で表情が変わる
猫シリーズは夏に2本登場します。第一弾が「別仕込 真夏の猫」で、2026年は5月11日に発売されました。海でバカンスを楽しむ猫が描かれた、夏らしいラベルです。第二弾が「純米吟醸 別仕込 夕涼み猫」で、こちらは同じく美山錦を精米歩合48%まで磨き、アルコール度数15度、一回火入れで仕上げられています。
一回火入れというのは、貯蔵前か瓶詰め前のどちらか一方だけ加熱処理をしたという意味です。まったく火入れをしない生酒に比べると味の変化がゆるやかで、生酒の持つみずみずしさは残しつつ、家庭の冷蔵庫でも扱いやすくなります。夏酒に一回火入れを選ぶのは、流通中の温度が上がりやすい季節への現実的な答えでもあります。
選び分けの目安はこうです。搾りたての勢いと澱のふくらみを楽しみたいなら春のさくら猫、食事と一緒に落ち着いて飲みたいなら夕涼み猫。どちらも同じ48%磨きなので、精米歩合の数字だけを見て「同じ味」と判断しないよう気をつけてください。生か火入れかの違いのほうが、飲んだときの印象を大きく左右します。
秋と冬にも猫がいる|通年ではなく「季節ごとの別人」と考える
猫シリーズは春夏だけではありません。秋には「ハロウィン猫ラベル」、冬には「こたつ猫ラベル」が登場し、絵柄が季節に合わせて描き替えられます。ハロウィン猫は猫がかぼちゃに変身するデザインで、こたつ猫は冬らしい生原酒として親しまれています。
ここで押さえておきたいのは、猫ラベルは「同じ酒のラベル違い」ではないということです。ベースとなる別仕込の設計は共通していても、生か火入れか、うすにごりかそうでないか、といった仕様が季節ごとに切り替わります。同じ猫だからと同じ飲み方をすると、印象がずれることがあります。
買うときは、ラベルの絵柄ではなく裏ラベルの表示を確認してください。「生原酒」「一回火入れ」「うすにごり」といった記載が、その1本の性格を教えてくれます。絵柄で選んで表示で確かめる、という二段階が猫シリーズの正しい買い方です。
| 比較項目 | さくら猫 | 夕涼み猫 |
|---|---|---|
| 原料米・精米歩合 | 美山錦・48% | 美山錦・48% |
| 火入れの有無 | なし(うすにごり生原酒) | 一回火入れ |
| アルコール度数 | 15度 | 15度 |
| 日本酒度・酸度 | -2・1.4 | 公表なし |
| 出回る時期 | 春(2026年は3月3日出荷開始) | 夏(猫シリーズ夏酒 第二弾) |

「メガネ専用」はふざけた名前の真面目な酒だった

10月1日が日本酒の日でもメガネの日でもある、という偶然から生まれた
萩の鶴を語るうえで外せないのが「メガネ専用」です。名前の由来は、仕込みを担当する製造スタッフが全員メガネを着用していたという蔵の実情にあります。そこに、10月1日が「日本酒の日」であり同時に「メガネの日」でもあるという偶然が重なって、企画が形になりました。
日本酒の日は1978年に日本酒造組合中央会が制定したもので、新米で酒造りが始まるのが10月であること、酒造年度が10月1日に始まることなどが理由です。一方のメガネの日は1997年に日本眼鏡関連団体協議会が制定しました。「1001」の1をつるに、0をレンズに見立てるとメガネの形になる、という語呂合わせが由来です(日本酒で乾杯!キャンペーン公式サイト)。
ふたつの記念日が同じ日にあることに気づいた蔵が、それを商品名にしてしまった——というのがメガネ専用の出発点です。名前だけを見るとジョーク商品に見えますが、中身は蔵人が別々に仕込んだ酒をブレンドして組み立てた、手のかかった造りになっています。
数字で見ると分かる、酸度2.2という攻めた設計
メガネ専用(特別純米)のスペックは、原料米が美山錦、精米歩合60%、アルコール度数16度、日本酒度-3、酸度2.2です。注目すべきは酸度2.2という数字で、日本酒の酸度は1.3〜1.5前後に収まることが多いため、明確に酸を効かせた設計だと分かります。
日本酒度-3で甘みがありながら、酸度2.2でその甘さを引き締める。この組み合わせが、白ワインのような輪郭を生みます。口に含むと最初に米の甘みが広がり、そのあと酸がすっと入ってきて、後味が重くならずに切れていく——この構造が、揚げ物や乳製品を使った料理と噛み合う理由です。
火入れ酒なので生酒ほど神経質な管理は不要ですが、開栓後は冷蔵庫での保管が基本になります。取扱店の表示価格は720mlで1,760円ですが、実売価格は店によって差があります。
| 酒蔵・産地 | 萩野酒造(宮城県栗原市) |
| 特定名称 | 特別純米酒(メガネ専用) |
| 精米歩合 | 60%(美山錦) |
| アルコール度数 | 16度/日本酒度-3/酸度2.2 |
| 内容量・価格 | 720ml/1,760円(税込・取扱店表示価格) |
| おすすめの飲み方 | 10℃前後の冷酒。小ぶりなワイングラスで酸の輪郭を拾う |
「元祖メガネ専用」は日本酒度-11、まったく別の酒だと考える
メガネ専用にはもう1本、「元祖メガネ専用」という商品があります。企画10周年を記念して造られたもので、こちらは精米歩合60%・アルコール度数15度と数字だけ見れば近いのですが、日本酒度-11、酸度2.6という別次元の設計です。リンゴ酸酵母単体で仕込まれています。
リンゴ酸酵母は、その名のとおりリンゴ酸を多く生成する酵母で、爽やかな酸味と甘さが同居する酒質になります。日本酒度-11は数字だけ見ると相当な甘口ですが、酸度2.6がその甘さを立体的に支えるため、飲んだ印象はべたつかず、白ワインに近い感覚になります。日本酒を飲み慣れていない人に出しても構えられにくいタイプです。
取扱店の表示価格は720mlで1,925円、1800mlで3,630円です。保管は瓶を立てて要冷蔵と案内されています。名前が似ているせいで「メガネ専用の別サイズ」と誤解されやすいのですが、日本酒度が-3と-11では味の設計がまったく違います。棚で並んでいたら、裏ラベルの日本酒度を見て選び分けてください。
通年で買える定番3本の違いを、公表値だけで見分ける
手造り純米酒|日本酒度+2、宮城県産米100%の基準点
季節限定酒に目を奪われがちですが、萩の鶴の実力を測るなら通年商品から入るのが確実です。その基準点になるのが「手造り純米酒」で、原料米は宮城県産米100%、精米歩合60%、アルコール度数15度、日本酒度+2、酸度1.6という構成です。
日本酒度+2はごくわずかに辛口寄り、酸度1.6は標準よりやや高めで、この組み合わせは料理と合わせたときに輪郭が消えない設計を意味します。冷やしても常温でも飲めますが、この酒の良さが出るのは15〜20℃あたりの常温付近です。冷やしすぎると酸だけが目立ち、米の甘みが引っ込みます。
価格は宮城県酒造組合の公表値で1800ml/3,080円、720ml/1,760円です(宮城県酒造組合「宮城の酒選り取りナビ」)。まずこの1本を基準にして、猫ラベルやメガネ専用がどれだけ振り切っているかを測ると、銘柄全体の設計思想が見えてきます。
辛口特別純米酒|同じ60%磨きでも日本酒度+3で切れが立つ
もう1本の通年商品が「辛口特別純米酒」です。精米歩合60%、アルコール度数15度、日本酒度+3、酸度1.6という数値で、手造り純米酒と並べると精米歩合も酸度も同じ、違うのは日本酒度が+2か+3かという1ポイントだけです。
日本酒度が1ポイント違うだけでも、後味の切れ方は変わります。+3の辛口特別純米酒は、口に含んだあとの糖の余韻が短く、料理の脂を流す働きが強くなります。焼き鳥のタレや煮魚のように味付けが濃い料理に合わせると、この差が分かりやすく出ます。
取扱店の表示価格は720mlで1,760円です。「辛口」という言葉に引きずられて刺激的な酒を想像すると肩透かしを食らうかもしれませんが、萩の鶴の辛口は角を立てる辛さではなく、余韻を短くする方向の辛さです。この違いを理解しておくと、ラベルの「辛口」表記に振り回されなくなります。
純米大吟醸 山田錦|精米歩合40%、贈り物の選択肢として
ワンランク上を狙うなら「純米大吟醸 山田錦」です。山田錦を精米歩合40%まで磨いた1本で、白い化粧箱に入ることから「白箱」と呼ばれることもあります。取扱店の表示価格は720mlで3,300円、1800mlで6,600円です。
精米歩合40%というのは、玄米の外側6割を削り落としているということです。米の外層にはたんぱく質や脂質が多く、これが雑味の元になるため、削るほど酒はきれいになります。ただし削れば削るほど良い、という単純な話でもなく、旨味の厚みは減っていきます。40%は、香りのきれいさと米の輪郭がちょうど釣り合う位置です。
贈り物として選ぶなら、この純米大吟醸か、話題性を取るならメガネ専用という選択になります。注意点として、純米大吟醸は冷蔵での流通が前提になることが多いため、配送を伴う贈り物ではクール便に対応した店を選んでください。常温便で送ると、届いたときに香りが変わっていることがあります。
| 比較項目 | 手造り純米酒 | 辛口特別純米酒 | 純米大吟醸 山田錦 |
|---|---|---|---|
| 原料米 | 宮城県産米100% | 国産米 | 山田錦 |
| 精米歩合 | 60% | 60% | 40% |
| アルコール度数 | 15度 | 15度 | 公表なし |
| 日本酒度・酸度 | +2・1.6 | +3・1.6 | 公表なし |
| 720mlの表示価格 | 1,760円 | 1,760円 | 3,300円 |
| 向いている場面 | 毎日の食中酒 | 味の濃い料理 | 贈り物・記念日 |
※日本酒の教科書調べ。宮城県酒造組合および正規特約店の公表値をもとに作成(2026年9月時点)。価格は取扱店により異なります。
もうひとつの顔「日輪田」が生酛にこだわる理由
実は、蔵の技術力が濃く出ているのは猫ではなくこちらかもしれない
意外と知られていないのですが、萩野酒造には萩の鶴と並ぶもうひとつのブランド「日輪田(ひわた)」があります。萩の鶴が「穏やかな香りとすっきりとした味わいのスマートな酒」と説明されるのに対し、日輪田は「米の旨みを出した個性の強い味」と位置づけられています。同じ蔵の酒でありながら、狙いが正反対に近いのです。
そして日輪田は、全量が生酛(きもと)造りで仕込まれています。生酛は、乳酸を人工的に添加せず、蔵に住む乳酸菌の働きを利用して酒母を育てる伝統製法です。手間と時間がかかり、温度管理を誤れば雑菌に負けるため、蔵の衛生管理と技術がそのまま結果に出ます。「潔癖醸造」を掲げる蔵が生酛に取り組んでいるのは、偶然ではありません。
猫ラベルの華やかさに注目が集まりがちですが、蔵の実力を測る物差しとしては日輪田のほうが分かりやすい、という見方もできます。萩の鶴を気に入ったら、次の1本として日輪田を試してみると、同じ蔵の別の表情が見えてきます。
日輪田 生もと純米酒|精米歩合60%・16度、冷やしても燗でも
日輪田の入口になるのが「生もと純米酒」です。精米歩合60%、アルコール度数16度で、取扱店の表示価格は720mlで1,870円。萩の鶴の通年商品と同じ60%磨きですが、生酛造りという製法の違いが味を大きく分けます。
取扱店は味わいを「最初は透明感で入り、最後は生酛らしい力強さで抜けていく」と表現しています。前半はきれいで、後半に酸と旨味の厚みが立ち上がる二段構えです。生酛特有の乳酸由来の酸は、温度が上がると角が取れてふくらむため、冷酒でも燗でも成立します。
合わせる料理は、程よい濃さの味付けのものが向きます。豚の角煮、きのこのバター炒め、味噌を使った煮込みなど、旨味の濃い料理と並べると、生酛の酸が脂を切って次の一口を軽くします。淡白な白身の刺身に合わせると、酒のほうが勝ってしまうことがあるので気をつけてください。
生酛と速醸、ラベルの表記でどう見分けるか
生酛造りかどうかは、ラベルに「生酛」「生もと」「きもと」と書かれているかで判断できます。表記がなければ、現在主流の速醸(そくじょう)酛です。速醸は醸造用乳酸を添加して短期間で酒母を仕上げる方法で、安定性が高く、きれいな酒質を狙いやすいという利点があります。
萩の鶴は速醸造りに絞られており、日輪田が生酛を担当する、という役割分担になっています。同じ蔵で製法を分けているのは、それぞれの製法が得意とする味の領域が違うからです。透明感を出したいなら速醸、旨味の厚みと熟成のポテンシャルを求めるなら生酛、という使い分けです。
見分けの豆知識として、生酛の酒は買ってすぐより、開栓してから数日置いたほうが開くことが少なくありません。冷蔵庫で保管しながら1週間かけて味の変化を追うと、生酛の面白さが分かります。逆に萩の鶴の生原酒系は、開栓後の変化が早いので早めに飲み切るのが向いています。
萩の鶴を飲み頃で味わうための温度と器の選び方
生原酒は10℃前後、火入れは常温近くまで戻すのが基本
同じ銘柄でも、生原酒と火入れ酒では最適な温度帯が違います。さくら猫のようなうすにごり生原酒は、10℃前後の冷酒で飲むと、澱のふくらみと華やかな香りが両立します。冷やしすぎると香りが閉じ、逆に温度が上がりすぎると生原酒特有の重さが前に出ます。
一方、手造り純米酒や辛口特別純米酒のような火入れの純米系は、冷蔵庫から出して15〜20分ほど置き、15〜20℃の常温付近まで戻したほうが米の甘みが立ちます。日本酒度+2や+3という数値は、冷やすと辛口方向に、温めると甘み方向に感じられるため、同じ酒でも印象が変わります。
器も味に効きます。メガネ専用や元祖メガネ専用のように酸を効かせた酒は、口の狭い小ぶりなワイングラスに注ぐと酸の輪郭がきれいに立ちます。手造り純米酒のような食中酒は、陶器のぐい呑みのほうが角が取れて料理に馴染みます。ガラスは輪郭を立て、陶器は丸める、と覚えておくと器選びで迷いません。

「日本酒は冷やして飲むもの? それとも熱燗?」——同じ一本でも、温度が5℃違うだけで香りや甘みの感じ方はまるで別物になります。せっかく買った日本酒を「なんとなく…
日輪田を燗にするなら、湯煎で40℃前後を狙う
日輪田の生もと純米酒は、燗にすると乳酸由来の酸がふくらみ、旨味が前に出ます。狙いたいのは40℃前後のぬる燗です。電子レンジは徳利の上下で温度差が出やすいため、湯煎のほうが仕上がりが安定します。
豆知識として、生酛の酒は温めたときに一度味が閉じ、少し冷めてくると開く、という動きをすることがあります。つけた直後に「思ったより平坦だ」と感じても、数分置いてから飲み直してみてください。
やりがちな失敗|冷蔵庫から出してすぐ注いで、味が閉じたまま終わる
もうひとつよくある失敗が、火入れの純米酒を冷蔵庫から出してすぐグラスに注ぎ、「思ったより味が薄い」と判断してしまうことです。原因は温度で、5℃前後まで冷えた酒は甘みと旨味の分子の動きが鈍く、酸と苦味だけが舌に届きます。手造り純米酒のような日本酒度+2の食中酒ほど、この影響を受けます。
対策はシンプルで、注いだあと数分待つことです。グラスに注いだ酒は室温で少しずつ温度が上がるので、一口目と三口目で味が変わっていきます。この変化を追うのが日本酒の楽しみ方のひとつでもあります。急ぐ場合は、グラスを手のひらで包んで温度を上げてもかまいません。
逆に、生原酒を常温で放置するのは避けてください。生酒は酵素が生きているため、温度が上がると味の変化が一気に進みます。冷蔵庫から出したら早めに注ぎ、瓶はすぐ戻す。この一手間で、最後の一杯まで買ったときの味が保てます。
どこで買える?取扱店と蔵元の店頭、季節ごとの出回り方
正規特約店を軸に探すのが確実
萩の鶴は、蔵と取引のある正規特約店を中心に流通しています。全国の主な取扱店には、仙台市の酒販店をはじめ、東京・横浜・大阪などの日本酒専門店が名を連ねています。オンラインショップを持つ特約店も多く、季節限定酒の入荷情報をSNSやメールマガジンで告知しているところが少なくありません。
探し方のコツは、店名ではなく銘柄名で検索し、「萩野酒造 特約店」と明記している店を選ぶことです。特約店は蔵から直接仕入れているため、冷蔵管理された状態で届く可能性が高くなります。特に生原酒系は、流通経路の温度管理がそのまま味に出ます。
注意点として、季節限定の猫ラベルは入荷数が限られるため、告知が出てから数日で完売することがあります。狙っている季節酒がある場合は、前のシーズンのうちに取扱店のメールマガジンに登録しておくと取り逃しが減ります。
蔵元でも一部の商品を店頭で購入できる
宮城まで足を運ぶ機会があるなら、蔵元の店頭でも一部の商品を購入できます。ただし、すべての商品が並ぶわけではなく、蔵元は「一部のお酒に限り、店頭で販売しております」と案内しています。配達や包装には対応していないため、贈り物用に整えたい場合は特約店を利用してください。
訪問前に必ず営業日を確認しましょう。日曜・祝日とお盆、年末年始は休業です。蔵見学については「要相談」とされているため、見学希望の場合は事前の問い合わせが必要です。
| 住所 | 〒989-4806 宮城県栗原市金成有壁新町52番地 |
| 電話番号 | 0228-44-2214 |
| 営業時間 | 9:30〜12:00 / 13:00〜17:00 |
| 定休日 | 日曜・祝日、お盆、年末年始 |
| アクセス | JR東北本線 有壁駅 |
| 公式サイト | 公式サイト |
蔵が建つ有壁は、奥州街道の宿場町だった土地です。旧有壁本陣の向かいという立地そのものが、この蔵の歴史を物語っています。酒を買うだけでなく、街道の風景と合わせて訪ねると、萩の鶴という名前の意味が実感として入ってきます。
季節酒はいつ動く?1年の出回り方を把握しておく
萩の鶴を追いかけるなら、季節酒のカレンダーを頭に入れておくと便利です。春は3月のさくら猫、夏は5月の真夏の猫と、その後に続く夕涼み猫。秋にはハロウィン猫、冬にはこたつ猫が登場します。通年商品は年間を通じて流通しているため、季節酒が動いていない時期でも困ることはありません。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ○ | ○ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | △ | ○ | ◎ | ○ | ◎ |
◎=季節限定酒が動きやすい時期 ○=普通 △=限定酒は控えめ(通年商品は1年中流通)
読者タイプ別、最初に買うべき1本
日本酒を飲み始めたばかりで甘くフルーティーな酒が好きな方には、元祖メガネ専用(日本酒度-11・酸度2.6)が入りやすい選択です。白ワインに近い感覚で飲めるため、日本酒特有の重さが苦手な方でも構えずに口をつけられます。
毎日の食事に合わせる1本を探している方には、手造り純米酒(日本酒度+2・酸度1.6)です。冷やしても常温でも飲め、和食から洋食まで幅広く受け止めます。味の濃い料理が多い家庭なら、辛口特別純米酒(日本酒度+3)に振ったほうが噛み合います。
贈り物なら純米大吟醸 山田錦(精米歩合40%)、話題性を重視するなら猫ラベルかメガネ専用。日本酒を長く飲んでいる方への贈り物としては、日輪田の生もと純米酒が意外性のある選択になります。相手の好みが分からないときは、通年商品を選んでおくと外しにくいでしょう。
萩の鶴は令和6酒造年度の全国新酒鑑評会で金賞を受賞しています。この年は809点が出品され、410点が入賞、そのうち202点が金賞という結果でした(独立行政法人酒類総合研究所・日本酒造組合中央会、令和7年5月21日発表)。猫ラベルの印象が先行しがちですが、鑑評会の場でも評価されている蔵だという事実は、選ぶときの安心材料になります。
受賞の詳細は酒類総合研究所の公式発表で確認できます。
まとめ:萩の鶴は「遊び心のあるラベル」と「真面目な酒質」が同居する銘柄
猫のイラストやメガネという名前は、たしかに目を引きます。けれど棚から1本を選ぶときに本当に見るべきなのは、裏ラベルに小さく印字された精米歩合・日本酒度・酸度、そして生か火入れかという表示です。萩の鶴はその数値が公表されている銘柄なので、数字を手がかりに自分の好みへ近づいていけます。最初の一歩としては、手造り純米酒(精米歩合60%・日本酒度+2・酸度1.6)を1本買い、冷蔵庫で冷やした状態と、10分ほど置いて常温に戻した状態を飲み比べてみてください。同じ酒で味が変わる体験が、次の1本を選ぶ物差しになります。
※記載の価格・スペック・季節酒の出荷時期は2026年9月時点で確認した公表値です。取扱店により価格は異なり、季節限定酒の内容は年によって変更されることがあります。最新情報は萩野酒造公式サイトでご確認ください。20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されています。

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