本記事にはプロモーション(広告)が含まれています
日本酒売り場で「稲とアガベ」というラベルを見かけて、手に取ってから首をかしげた——そんな経験はありませんか。裏ラベルを読むと、そこには「清酒」ではなく「その他の醸造酒」と書かれています。米と米麹でつくられ、見た目も香りも日本酒そのものなのに、なぜ日本酒と名乗っていないのか。この違和感こそが、稲とアガベを理解する入口です。
結論から言うと、稲とアガベは秋田県男鹿市で2021年11月に生まれた「クラフトサケ」の醸造所であり、そのブランド名でもあります。クラフトサケとは、日本酒の製造方法をベースにしながら、発酵の段階でアガベシロップやホップといった副原料を加える新しいジャンルのお酒のこと。副原料を使った時点で酒税法上は清酒に分類されなくなるため、あえて「その他の醸造酒」というカテゴリーで勝負している、というのが答えです。
この記事では、稲とアガベがなぜ生まれたのか、精米歩合90%という「磨かない」造りが何を意味するのか、CRAFT・DOBUROKU・SAKEという3つのシリーズはどう違うのか、そしてどこで買えて、初めての1本にはどれを選べばいいのかまでを、公式サイトの公表値をもとに順番に整理していきます。男鹿の醸造所を訪ねたい人のために、併設ショップの現状もあわせてまとめました。
・稲とアガベが「日本酒」ではなく「その他の醸造酒」になる制度上の理由
・精米歩合90%・自然栽培米・生酛という造りが味にもたらす変化
・CRAFT/DOBUROKU/SAKEの3シリーズの中身と公式価格
・入手ルートと、初めての1本を選ぶときの判断軸
・男鹿の醸造所を訪ねるときに知っておきたい現状
稲とアガベとは何者?日本酒好きが夢中になる「日本酒じゃない酒」

秋田県男鹿市で2021年に立ち上がった、日本でいちばん新しい形の造り手
稲とアガベは、秋田県男鹿市を拠点とする稲とアガベ株式会社が2021年11月に立ち上げた醸造所であり、そこで生まれるお酒のブランド名でもあります。代表は岡住修兵さん。米と米麹を発酵させるという骨格は日本酒とまったく同じで、そこにアガベシロップやホップなどの副原料を加えることで、清酒の枠に収まらない味をつくっています。
なぜこの形になったのかというと、日本では国内向けの清酒製造免許が原則として新規発行されないからです。つまり、どれだけ腕があっても、ゼロから「日本酒の蔵」を始めることは制度上できません。だからこそ稲とアガベは、副原料を使う「その他の醸造酒」というカテゴリーを選び、そこで日本酒の技術を全開にするという道を取りました。制約から逃げたのではなく、制約の中で正面から戦うための選択です。
見分け方はかんたんで、瓶の裏ラベルの品目欄を見れば「その他の醸造酒」と書かれています。特定名称酒(純米酒や吟醸酒)の表示は付きません。「日本酒コーナーに置かれているのに日本酒じゃない」という状態は、酒販店の棚では珍しいことではなくなってきました。
注意しておきたいのは、この「その他の醸造酒」という表記が品質の格付けではないという点です。清酒に該当しないのは副原料を使っているからであって、原料米のグレードや造りの丁寧さとは別の話。ラベルの区分だけで中身を判断すると、稲とアガベというブランドの面白さを丸ごと見落とすことになります。
| 酒蔵・産地 | 稲とアガベ醸造所(秋田県男鹿市) |
| 特定名称 | なし(酒税法上は「その他の醸造酒」) |
| 精米歩合 | 90%(磨かない造りが蔵の方針) |
| アルコール度数 | 15度(CRAFT series 稲とアガベ 改良信交の表示値) |
| 内容量・価格 | 720ml/3,000円(税別・公式) |
| おすすめの飲み方 | 冷やして小さめのグラスで。香りの立ち上がりを追う |
創業者は新政酒造で酒造りを学んだ岡住修兵さん
稲とアガベの輪郭を決めているのは、代表・岡住修兵さんの経歴です。1988年に福岡県で生まれ、神戸大学経営学部を卒業。2014年から秋田市の新政酒造で酒造りを学び、2018年に退社しています。独立の準備期間には東京・浅草の木花之醸造所で初代醸造長を務め、2021年に男鹿市で稲とアガベ醸造所を設立しました。
新政酒造で過ごした時間が効いているのは、生酛造りや協会酵母への向き合い方に表れています。酵母を添加せず、蔵に棲む微生物の力で酛を立てる。低温でゆっくり発酵させる。こうした手法は、香りを派手に立てるための近道ではなく、米そのものの輪郭を出すための遠回りです。稲とアガベの味が「甘やかされていないのに飲みやすい」と受け取られるのは、この遠回りの結果だと考えると腑に落ちます。
岡住さんが掲げているモットーは「磨かず技術を磨く」。米を削って雑味を取り除くのではなく、削らないまま雑味を出さない造りを技術で成立させる、という宣言です。日本酒の世界では長らく「よく磨いた酒=上等」という価値観が支配的でしたが、そこにまっすぐ異を唱えたことが、稲とアガベが注目を集めた理由のひとつでしょう。
新政酒造そのものの成り立ちや、なぜあの蔵の酒が手に入りにくいのかを知っておくと、稲とアガベの造りの背景がさらに立体的に見えてきます。

「新政を飲んでみたいのに、どこにも売っていない」「ネットで見かけたけれど、この値段は本当に正しいの?」——秋田の新政酒造が醸すお酒を探し始めると、多くの人がこの…
醸造所が建つのは、旧JR男鹿駅の駅舎跡地
稲とアガベ醸造所は、JR男鹿駅の旧駅舎跡地に建っています。ホームや駅員室の自動ドアはそのまま残され、地元の人の記憶を引き継ぐかたちで醸造所に転用されました。「駅だった場所で酒を造る」という選択は、単なる物件探しの結果ではありません。
なぜここなのかというと、稲とアガベが目指しているのが酒造りだけではなく、男鹿というまちそのものの再生だからです。人が集まっていた場所が空いていく地方の現実に対して、その場所をもう一度人が集まる理由に変える。醸造所・ショップ・加工工場・飲食店を同じエリアに束ねていく展開は、この発想の延長線上にあります。
訪ねるときに知っておきたいのは、雰囲気の残り方です。プラットホームの構造がそのまま生きているため、建物の輪郭に鉄道の記憶が残っています。酒を買いに行くというより、まちの新しい入口を見に行く感覚に近いかもしれません。
ひとつ注意点を挙げると、醸造所そのものの一般公開は行われていません。「駅舎跡の蔵を見学できる」と期待して足を運ぶと、期待と現実がずれます。訪問の目的は併設ショップに置く、と最初から決めておくのが正解です。
なぜ日本酒と名乗れない?免許制度が生んだクラフトサケという答え
清酒製造免許は、原則として新しく発行されない
稲とアガベが日本酒を名乗らない最大の理由は、酒造免許の仕組みにあります。国内向けの清酒製造免許は原則として新規発行されず、新しく日本酒の蔵を始めることは実質的にできません。既存の蔵を買い取るか、免許ごと引き継ぐか——参入のルートはきわめて限られています。
この制度が生まれた背景には、日本酒の需給調整という考え方があります。供給過剰を防ぎ、既存の蔵を守るという目的で、新規参入の扉が閉じられてきました。良し悪しの議論はさておき、造り手を志す人にとっては「技術があっても始められない」という高い壁として立ちはだかってきたわけです。
そこで登場するのが、副原料を使うという発想です。米・米麹・水だけでつくれば清酒に該当しますが、そこにアガベシロップやホップを加えると、酒税法上は「その他の醸造酒」になります。この区分の免許であれば新規取得の道があるため、日本酒の技術をそのまま活かした酒造りが可能になる、というわけです。
覚えておきたいのは、これが抜け道ではなく正面突破だという点です。稲とアガベは副原料を「隠し味」ではなく味の設計要素として扱っています。制度に合わせて仕方なく何かを足しているのではなく、足すことで新しい味をつくりにいっている——ここを取り違えると、クラフトサケというジャンルの評価を大きく見誤ります。
2020年4月の法改正で開いた、輸出向けという扉
閉じられていた清酒免許に、部分的な例外ができたのが2020年4月の法改正です。輸出向けという条件付きであれば、清酒製造免許が発行されるようになりました。稲とアガベもこの輸出用清酒製造免許を取得しており、海外向けには正真正銘の日本酒を展開しています。
なぜ輸出向けだけ認められたのかというと、国内市場の需給を動かさずに、伸びている海外需要を取りにいくためです。国内の既存蔵と競合しない範囲であれば新規参入を認める、という折衷案がこの改正の中身でした。造り手にとっては、ようやく開いた小さな窓と言えます。
ここで起きるのが、少しねじれた状況です。同じ蔵で同じ米から仕込まれた清酒が、海外では日本酒として売られ、国内では売れない。日本国内にいる私たちが、日本の蔵が仕込んだ日本酒を買えないという逆転が実際に起きています。稲とアガベの活動が制度への問いかけとして語られるのは、この構造があるからです。
知っておくと得なのは、海外の酒販店やレストランのメニューに稲とアガベの名が「SAKE」として並ぶことがある、という事実です。旅先で見かけたときに「これは輸出用の免許で造られた清酒だ」とわかると、一杯の意味が変わってきます。
国内向けは委託醸造という第三の道
では国内で稲とアガベの清酒はまったく飲めないのかというと、そうではありません。群馬県の土田酒造の協力を得て、委託醸造というかたちで共同開発した清酒が「SAKE series」として展開されています。免許を持つ蔵の設備で、稲とアガベの設計した酒を仕込むという方式です。
この方法が成り立つのは、日本酒の造りが「誰が仕込むか」だけでなく「どう設計するか」で決まる部分が大きいからです。使用酵母や仕込み配合の設計思想を持ち込めば、造り手の個性は蔵をまたいでも表現できます。SAKE seriesに協会4号酵母や協会5号酵母を使った商品が並ぶのは、その設計意図がそのまま商品名になっている好例です。
具体的な見分け方としては、シリーズ名を見るのがいちばん早いでしょう。CRAFTとDOBUROKUは「その他の醸造酒」、SAKE seriesは清酒。同じ造り手の名前が入っていても、法律上の区分がまったく違います。贈り物として選ぶときは、この違いを一言添えると受け取る側も戸惑いません。
稲とアガベを日本酒好きの相手に贈ったところ、裏ラベルの「その他の醸造酒」を見て「これは日本酒じゃないの?」と聞かれて答えられなかった——という行き違いはよく起こります。原因は区分の説明を添えていないこと。対策はシンプルで、「米と米麹で仕込んだクラフトサケで、副原料を使っているから清酒には分類されない」と一文添えるだけです。20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されています。
磨かないのに雑味が出ない?精米歩合90%が生む味の正体

精米歩合90%という、真逆の選択
稲とアガベの造りでいちばん象徴的なのが、精米歩合90%という数字です。米の外側を1割しか削らず、ほとんど磨かないまま仕込みます。純米大吟醸が50%以下まで削ることを思えば、まったく逆の方向を向いた選択です。
なぜ削らないのかというと、米の外側にはタンパク質や脂質が多く含まれ、これが雑味の原因になるとされてきたからです。裏を返せば、雑味の原因を残したまま雑味を出さない造りができれば、米そのものの旨味を丸ごと酒に移せることになります。稲とアガベが挑んでいるのは、まさにこの一点です。
味わいとして表れるのは、口に含んだときの厚みです。よく磨いた酒が持つ透明感のかわりに、炊きたての白米に近い甘みと、噛みごたえを思わせる密度が広がります。後味には穀物らしいほろ苦さが少し残り、それが次の一口を呼ぶ働きをします。冷やしすぎると旨味が閉じるので、冷蔵庫から出して数分置くくらいがちょうどいい温度感です。
知っておくと役に立つのは、精米歩合という数字の読み方そのものです。数字が小さいほど高級とされてきた理由と、その常識が崩れつつある理由を押さえておくと、稲とアガベのラベルの意味がはっきりします。

日本酒のラベルに小さく書かれた「精米歩合50%」という数字。なんとなく高級そうだとは思っても、その数字が味や香りにどう関わるのか、正確に説明できる人は意外と多く…
自然栽培米・生酛・低温発酵という三点セット
90%という数字を成立させているのが、原料と発酵の設計です。稲とアガベは秋田県産の無肥料無農薬米、いわゆる自然栽培米をすべての酒に使っています。さらに酵母を添加しない生酛造りと、低温発酵を組み合わせています。
この組み合わせが効く理由は、雑味の出方をコントロールする経路が複数あるからです。肥料を抑えた米はタンパク質量が低くなりやすく、削らなくても雑味の原因が少ない。生酛造りでは乳酸菌が酛の中で働き、酸のバランスが自然に整う。低温発酵は醪の暴走を防ぎ、荒い成分が出るのを抑える。三方向から同時に押さえているわけです。
飲むときにこの設計を感じ取る方法があります。抜栓してすぐと、30分置いたあとを比べてみてください。生酛由来の酸が空気に触れて開き、最初は硬く感じた味が丸くなっていくはずです。ワイングラスのような口の広い器を使うと、この変化がわかりやすくなります。
注意したいのは、酵母無添加の酒は個体差が出やすいという点です。同じ銘柄でも仕込みロットによって表情が変わることがあります。これは欠点ではなく、造りの性格そのもの。同じラベルを別のタイミングで買って飲み比べる楽しみ方ができる、と考えるほうが実態に合っています。
意外と知られていないのですが、精米は雑味を物理的に取り除く工程です。よく磨けば磨くほど、味を乱す要素はあらかじめ減らされます。つまり高精白は、造りの難易度を下げる方向にも働く。90%という数字を選ぶことは、その安全装置をあえて外して、原料選びと発酵管理だけで味を整えるという宣言にほかなりません。「磨かず技術を磨く」というモットーは、精神論ではなく工程上の事実を言い当てた言葉です。
副原料は隠し味ではなく、味の設計図
稲とアガベの副原料の使い方は、味を足すというより味の方向を決める役割を担っています。アガベシロップ、ホップ、麦麹、全量米麹——それぞれが酒の骨格そのものを変えています。
アガベシロップはテキーラの原料であるアガベから採れる甘味料で、発酵段階で加えることで甘みの質を変えます。ホップはビールでおなじみの苦味と香りの素材で、米の甘みに輪郭を与えます。麦麹で仕込めば穀物の香ばしさが立ち、全量米麹で仕込めば糖化が強く進んで濃密な甘みが出ます。
選ぶときの目安としては、ふだん飲んでいるお酒から逆算するのが実用的です。ビールやIPAをよく飲む人は稲とホップ、焼酎やウイスキーの香ばしさが好きな人は稲とムギ、甘口の日本酒や貴醸酒が好きな人は稲とコウジ、といった具合に当たりをつけると外しにくくなります。
ひとつ豆知識を添えると、副原料入りだからといって甘い酒とは限りません。アガベシロップは発酵の原料にもなるため、加えた甘みがそのまま残るわけではないからです。「副原料=甘い」という先入観で敬遠すると、いちばん面白い1本を逃すことになります。
稲とアガベのラインナップを3系統で整理する
CRAFT series——副原料で味を描く4本の柱
CRAFT seriesは、稲とアガベの看板にあたるシリーズです。公式サイトでは4種類が紹介されており、いずれも内容量720ml、価格は3,000円(税別)で揃えられています。使用米はすべて秋田県産の無肥料無農薬米です。
4本の違いは副原料にあります。「稲とアガベ」はアガベシロップ、「稲とコウジ」は全量米麹の仕込み、「稲とホップ」はホップ、「稲とムギ」は麦麹仕込み。ベースが共通しているぶん、副原料の効き方がそのまま味の違いとして出てくる設計です。
飲み比べる順番としては、稲とアガベ→稲とコウジ→稲とムギ→稲とホップの流れが試しやすいでしょう。甘みの質の違いから入って、香ばしさ、そして苦味へと軸を移していく並びです。1本ずつ買い足していく場合でも、この順で辿ると味の地図が頭に入りやすくなります。
知っておきたいのは、同じ銘柄名でも使用米違いのバリエーションが出ることです。たとえばCRAFT seriesの「稲とアガベ 改良信交」は表示アルコール度数15度で、米の品種名がラベルに添えられています。同じ名前を見つけても中身が違うことがあるので、ラベルの米品種まで確認する習慣をつけておくと、買い間違いを防げます。
DOBUROKU series——酛の違いで飲み比べる4本
DOBUROKU seriesは、醪を漉さずに仕上げるどぶろくのシリーズです。こちらも公式サイトに4種類が並び、内容量は720ml。「どぶろく」「生酛」「ホップ」が3,000円(税別)、「水酛」が3,500円(税別)という価格構成になっています。使用米はCRAFT series同様、秋田県産の無肥料無農薬米です。
このシリーズの面白さは、酛の立て方で味が変わるところを直接比べられる点にあります。生酛は乳酸菌を蔵付きで育てる伝統的な手法、水酛は生米を水に漬けて乳酸を得るさらに古い手法で、どちらも酸の出方がまったく違います。漉していないぶん米の質感がそのまま口に残るので、造りの差が味に直結します。
飲み方のコツは、よく振ってから注ぐことです。沈殿した米の粒子が瓶底に溜まるため、そのまま注ぐと上澄みと沈殿で別の飲み物のようになります。小さめのグラスに注いで、飲むたびに軽く瓶を回すと最後まで同じ味を保てます。
気をつけたいのは、どぶろくは発酵が続いている場合があることです。冷蔵で立てて保管し、開栓時はゆっくり少しずつキャップを緩める。この2点を守るだけで、吹きこぼしの事故はほぼ防げます。
SAKE series——委託醸造で実現した「清酒」
SAKE seriesは、稲とアガベにとっての清酒の枠です。位置づけは輸出用清酒と、国内向けの委託醸造清酒。内容量は720mlで、国内向けは群馬県の土田酒造と共同開発するかたちで仕込まれています。
このシリーズが存在する理由は、前章で触れた免許制度そのものです。国内向けに清酒を届けるには既存蔵と組むしかない。その制約を、酵母の選択という切り口に変えたのがSAKE seriesの面白いところで、協会4号酵母、協会5号酵母といった歴史ある酵母を使った商品が展開されています。
選ぶときの見どころは、酵母名です。協会酵母は番号ごとに性格が異なり、古い番号ほど香りは穏やかで味の幅が出やすいとされています。CRAFT seriesの副原料で遊ぶ設計とは対照的に、清酒の枠内で酵母だけを変えて表情を描き分ける——同じ造り手の二つの顔を比べられます。
注意点としては、SAKE seriesは常時すべてが並ぶわけではないという点です。委託醸造という性質上、仕込みのタイミングと流通量に左右されます。見かけたら確保する、というのが現実的な向き合い方になります。
3シリーズを公式スペックで並べて比べる
ここまでの内容を、公式サイトの公表値だけで一覧にまとめました。日本酒の教科書調べとして、各シリーズの位置づけと価格を横並びにしています。味の主観評価は含めず、公表されている情報だけで構成しています。
| 比較項目 | CRAFT series | DOBUROKU series | SAKE series |
|---|---|---|---|
| 酒税法上の区分 | その他の醸造酒 | その他の醸造酒 | 清酒 |
| 造りの特徴 | 副原料を加えて仕込む | 醪を漉さない | 輸出用/委託醸造 |
| 主なラインナップ | 稲とアガベ/稲とコウジ 稲とホップ/稲とムギ |
どぶろく/生酛 ホップ/水酛 |
協会4号酵母 協会5号酵母ほか |
| 使用米 | 秋田県産 無肥料無農薬米 |
秋田県産 無肥料無農薬米 |
公式サイト参照 |
| 内容量 | 720ml | 720ml | 720ml |
| 公式価格 | 3,000円(税別) | 3,000円(税別) 水酛のみ3,500円(税別) |
公式サイト参照 |
この表から読み取れるのは、価格が意図的に揃えられているということです。副原料が違っても、酛の立て方が違っても、原則として同じ値付け。「どれが上等か」ではなく「どれが自分に合うか」で選んでほしい、という設計思想が価格表に表れています。詳しい商品情報は稲とアガベ公式サイトのCRAFT series紹介ページで確認できます。
どこで買える?入手ルートと初めての1本の選び方

公式オンラインショップと、全国の取扱酒販店
稲とアガベを買う主なルートは、公式オンラインショップと全国の取扱酒販店です。公式サイトにはオンラインショップへの導線と、酒販店・飲食店のパートナー一覧ページが用意されています。まずは公式サイトから辿るのが確実です。
なぜ酒販店ルートが重要かというと、稲とアガベのような造り手は取扱店との関係を大切にしているからです。冷蔵管理が必要な商品も多く、保管環境を信頼できる店に卸すという考え方が根底にあります。近所に取扱店があるなら、そこで買うのがいちばん安心です。
探し方のコツは、公式サイトの取扱店一覧を先に確認してから動くこと。日本酒に強い個人経営の酒販店や、クラフトサケを扱う専門店が中心になります。店頭になくても取り寄せに応じてくれる場合があるので、一度相談してみる価値はあります。
気をつけたいのは、フリマアプリなどの個人間取引です。酒類の販売には免許が必要で、温度管理の履歴も追えません。生酛や生酒の性格を持つ商品を、素性のわからないルートで買うのは避けたほうが無難です。
初めての1本はどれを選ぶ?タイプ別の入り口
初めて稲とアガベを買うなら、ふだんの好みから逆算するのがもっとも失敗しにくい方法です。シリーズが3系統あるぶん、当てずっぽうで選ぶと「思っていたのと違う」が起こりやすくなります。
日本酒をよく飲んでいて、旨口・食中酒が好きな人はCRAFT seriesの「稲とアガベ」から。クラフトビールが好きな人は「稲とホップ」、甘みの濃い酒が好きな人は「稲とコウジ」が入り口になります。にごり酒や甘酒の質感が好きならDOBUROKU series、あくまで清酒として味わいたいならSAKE seriesという振り分けです。
贈り物にする場合は、相手の飲酒スタイルを想像してから選びましょう。日本酒好きの相手にはSAKE seriesかCRAFT seriesの「稲とアガベ」、お酒のジャンルにこだわらない相手には「稲とホップ」のような意外性のある1本が話題になります。720mlという容量はひとりで飲み切るには少し多いので、複数人で開ける場面を想定するとちょうどいいサイズです。
入手が難しい銘柄との付き合い方全般については、抽選や特約店の仕組みを整理した記事も参考になります。

「話題の銘柄を飲んでみたいのに、どこの店にも置いていない」「ネットでは見かけるけれど、定価の何倍もの値段で手が出ない」——入手困難日本酒に興味を持つと、まず立ち…
買ったあとの保管と開栓——ここでつまずく人が多い
稲とアガベの商品は、買ってからの扱いで印象が変わります。生酛造りや無濾過生のタイプは温度と衝撃に敏感で、常温で放置すると味が急に変わることがあります。基本は冷蔵、立てて保管です。
理由は、瓶の中で微生物や酵素の働きが続いているからです。温度が上がるとその活動が速まり、意図した味の設計から離れていきます。とくにどぶろくは炭酸ガスが発生している場合があり、横に寝かせると噴きこぼれのリスクが上がります。
持ち帰るときの具体策としては、保冷バッグと保冷剤を用意しておくこと。車で運ぶなら足元ではなくクーラーボックスへ。開栓は必ずシンクの上で、キャップを一度に外さず少しずつ緩めてガスを逃がします。この手順を踏むだけで、テーブルを泡だらけにする失敗は避けられます。
開栓後は冷蔵で保管し、早めに飲み切るのが基本です。日が経つほど酸が立ち、味の輪郭が変わっていきます。変化を楽しむのもひとつの飲み方ですが、まずは開けたてのバランスを知ってから、というのが順番としておすすめです。
買った瓶をバッグに横向きに入れて持ち帰り、家で開けたら勢いよく噴き出した——という失敗は珍しくありません。原因は、瓶内に残ったガスが振動で沈殿物と混ざり、開栓時に一気に膨張することです。対策は3つ。立てて運ぶ、帰宅後に冷蔵庫で半日以上落ち着かせる、シンクの上でキャップを少しずつ緩める。この順番を守れば、中身を失わずに済みます。
男鹿の醸造所を訪ねる前に知っておきたいこと
ショップ「土と風」で味わえるもの
醸造所に併設されているのが、ショップ「土と風」です。ボトルの販売に加えて、クラフトサケの試飲やオリジナルのフードが用意されており、現地でしか体験できない切り口で稲とアガベに触れられます。
ここが訪問先として面白い理由は、飲み比べができるからです。クラフトサケの試飲は1杯200円、3種飲み比べは500円という料金設定になっています。ボトルで買う前に方向性を確かめられるので、自分に合うシリーズを見極めたい人にはうってつけです。
食べ物では、発酵ソフトクリームが看板メニューです。カップが450円、ワッフルコーンが500円。稲とアガベ限定のシングルオリジンコーヒーは650円で提供されています。酒粕や発酵をテーマにした造り手ならではのラインナップで、車で訪れて飲酒できない人でも楽しめる構成になっているのがありがたいところです。
訪問前に確認しておきたいのは、営業日です。定休日が設定されているため、思い立って向かうと閉まっていることがあります。旅程を組む段階で公式サイトを見ておくと確実です。
| 住所 | 秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-21 |
| 営業時間 | 11:00〜15:50(ショップ「土と風」) |
| 定休日 | 月・火 |
| 公式サイト | 公式サイト |
蔵見学はできない——期待値を合わせておく
訪問前に押さえておきたい最大のポイントが、醸造所の一般公開は行われていないという事実です。ショップは開いていますが、仕込みの現場を見学するツアーのようなものは用意されていません。
その理由は、衛生管理と発酵環境の維持にあります。酵母を添加しない生酛造りでは、蔵に棲みついた微生物の生態系が味の土台になります。外部から人が出入りすればその環境は乱れかねません。見学を受け入れないことは、造りの方針とセットになっている判断です。
では現地で何を見るのかというと、旧駅舎の面影を残した建物そのものです。ホームや駅員室の自動ドアがそのまま残されているので、外観と併設ショップを歩くだけでも、この場所が背負ってきた歴史は伝わってきます。
豆知識として添えておくと、造りを知りたいなら公式サイトやインタビュー記事のほうが情報量は多いです。見学を目的にせず、味と場所の空気を確かめに行く——そう位置づけを変えると、訪問の満足度は下がりません。
レストランは現在休業中という現状
もうひとつ、訪問計画に直結する情報があります。夜のレストラン「土と風」は、公式サイトで現在休業中と案内されています。シェフの独立にともなう休業です。
この情報が重要なのは、「昼にショップ、夜にレストラン」という組み立てで旅程を作ると、夜が空いてしまうからです。男鹿という土地柄、日が落ちてからの選択肢は限られます。宿や夕食を別で押さえておくのが現実的な備えになります。
具体的な組み立て方としては、ショップの営業時間に合わせて昼過ぎに到着し、試飲とボトル購入を済ませてから男鹿半島の観光に回るのが素直な流れでしょう。なまはげで知られる土地なので、酒と文化をセットで回る一日にできます。
注意しておきたいのは、休業や営業体制は変わりうるという点です。訪問直前に公式サイトを確認しておけば、無駄足も肩透かしも避けられます。
醸造所の外へ広がる稲とアガベ——蒸留所・食・全国ツアー
早苗饗蒸留所がTWSC2026でダブル金賞
稲とアガベの活動は、醸造所の中だけにとどまりません。グループの早苗饗蒸留所(SANABURI Distillery)は、東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2026(TWSC2026)で、山椒スピリッツとSANABURIジンの2製品が金賞を受賞しています。
この受賞が示しているのは、発酵と蒸留を地続きで扱う設計思想です。醸造で生まれた素材や技術を蒸留の側へ渡すことで、酒粕や副産物を含めた資源の循環が組み立てられます。初出品で出品した2種がいずれも受賞したという結果も、偶然の産物ではないことを裏づけています。
味わいの見当をつけるなら、山椒スピリッツは和素材の香りを軸にした一本、SANABURIジンはボタニカルの構成に地域性を織り込んだ一本、という位置づけになります。稲とアガベのクラフトサケを飲んだあとに触れると、同じ造り手の輪郭が見えてくるはずです。
覚えておきたいのは、こうしたスピリッツ類はクラフトサケとは流通が別だという点です。酒販店で稲とアガベの棚を見ても並んでいないことがあるので、公式のオンラインショップで探すのが早道になります。
SANABURI FACTORYと、まちに増えていく店
2023年には、SANABURI FACTORYという食品加工の拠点が立ち上がっています。捨てられていた素材を宝に変えるというコンセプトで、酒粕を使った発酵マヨなどが展開されてきました。さらに一風堂監修のラーメン店「おがや」も開業しています。
なぜ酒造りの会社が食品加工やラーメン店をやるのかというと、目的が男鹿というまちの再生にあるからです。酒だけを売っていても、まちに雇用は増えません。加工場をつくり、飲食店を開き、人が働ける場所を増やしていく——酒造りはその中心に置かれたエンジンという位置づけです。
訪れる側にとっての具体的なメリットは、選択肢が増えることです。酒を飲まない同行者がいても、食のコンテンツで一緒に楽しめます。発酵マヨのような持ち帰りやすい商品は、酒を飲まない相手への土産としても選びやすい部類です。
注意点としては、施設ごとに営業日や運営状況が異なることです。同じグループでも一括りにはできないので、行きたい場所ごとに個別に確認しておく必要があります。
日本酩酊計画2026——全国を巡る2ヶ月間
男鹿まで行けない人にとっての接点が、稲とアガベが主催する全国ツアー企画「日本酩酊計画2026」です。2026年7月29日から11月8日にかけて、全国各地を巡るかたちで展開されています。
企画の狙いは、酩酊という言葉を「日本の文化に酔う」という意味に置き直すことにあります。クラフトサケを軸に、日本酒・食・地域文化をまとめて届けるという構成で、飲食店や酒販店とのコラボイベント、セミナー登壇、百貨店の催事などが組まれています。
参加する側の動き方としては、開催地の一覧を先に確認するのが確実です。名古屋、仙台、北海道(余市・札幌)、東京、男鹿、福岡、天草、広島、神戸、京都、金沢などが開催地の例として挙げられています。近隣の回があれば、造り手の話を直接聞ける機会になります。
気をつけたいのは、イベントの日程や会場は変更されることがあるという点です。稲とアガベの公式サイトや公式のWEBメディアで、最新の告知を確認してから予定を組むのが安全です。
醸造所・蒸留所・加工場・飲食店・全国ツアー。ばらばらの事業に見えて、すべてが「男鹿というまちに人と仕事を戻す」という一本の線でつながっています。一本のボトルを買うことが、まちの循環に加わることでもある——この構造を知っていると、味の感じ方まで少し変わってきます。造り手の思想は、稲とアガベ公式サイトで確認できます。
まとめ:稲とアガベは「制度の外」で日本酒の技術を磨く造り手
稲とアガベを一言でまとめるなら、「日本酒を名乗れない場所から、日本酒の技術で戦っている造り手」です。国内向けの清酒製造免許が原則新規発行されないという制度の壁に対して、副原料を使う「その他の醸造酒」というカテゴリーを選び、そこで自然栽培米・精米歩合90%・生酛造り・低温発酵という真っ向勝負の造りを積み上げてきました。2020年4月の法改正で開いた輸出向け清酒免許を取得し、国内向けには土田酒造との委託醸造でSAKE seriesを届けているという二段構えも、制度を正面から受け止めた上での動き方です。
最初の一歩としておすすめしたいのは、CRAFT seriesの「稲とアガベ」を1本買って、冷蔵庫から出して数分置いてから、ワイングラスのような口の広い器で飲んでみることです。抜栓直後と30分後で味の開き方が変わるので、その差を追うだけで、この造り手が何をしようとしているのかが体感でわかります。そこから気に入れば、副原料違いのCRAFT series、酛違いのDOBUROKU series、清酒のSAKE seriesへと横に広げていく——これが遠回りに見えていちばん近い順路です。
なお、価格・営業時間・ラインナップは変わることがあります。購入や訪問の前に、最新情報は公式サイトでご確認ください。20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されています。

コメント